函館地方裁判所 昭和38年(レ)21号 判決 1963年11月15日
控訴人 佐々木勝憲 外六名
被控訴人 水上建設興業株式会社 外二名
主文
原判決中、被控訴人らに関する部分を取消す。
被控訴人水上建設興業株式会社、水上甚五郎は控訴人らに対し、別紙目録<省略>記載の(一)の土地上に有する(二)の建物のうち(イ)の部分より退去してその敷地を明渡せ。
被控訴人大竹重則は控訴人らに対し、右土地上に有する右建物のうち(ロ)の部分より退去してその敷地を明渡せ。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
事実
第一、当事者双方の申立
控訴代理人は、主文第一ないし第三項と同旨の判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
第二、控訴人らの主張
控訴代理人は、次のとおり述べた。
一、別紙目録記載(一)の土地(以下本件土地という。)は、もと控訴人らの先代佐々木善松の所有であつたが、同人は昭和三四年六月一五日死亡し、控訴人らが相続により同人の権利義務を承継して右土地所有権を取得したものであるが、被控訴人水上建設興業株式会社、同水上甚五郎は共同して右地上に有する別紙目録記載の(二)の建物(以下本件建物という。)のうち(イ)の部分に、同大竹重則は右建物のうち(ロ)の部分にそれぞれ居住し、何ら正当な権原がないのにその敷地を占有しているので、控訴人らは被控訴人らに対して、それぞれ右建物部分から退去してその敷地の明渡を求める。
二、被控訴人主張の二、の事実のうち本件土地がもと佐々木善松の所有で、同人が杉本初三郎に対しその主張のように賃貸し、杉本は地上に建物を建築所有し、同人は建物と土地賃借権を大竹今朝徳に譲渡し、同人は建物をその主張のように被控訴人らに賃貸したこと、善松が死亡し、控訴人らが相続したこと、大竹が建物買取の請求をしたことは認める。
三、しかしながら、被控訴人ら主張の本件建物買取請求権の行使は次の理由により効果がない。即ち、
(一) 控訴人らは、さきに函館地方裁判所に大竹今朝徳を相手方として、土地賃借権を無断で譲受け本件土地をその地上に本件建物を所有することにより権原なく不法に占拠することを理由として、右建物を収去してその敷地の明渡を求める訴訟を提起し、その控訴審たる札幌高等裁判所函館支部において昭和三六年九月二六日控訴人ら勝訴の判決があり、この判決は同三七年一月二五日に確定しており、右大竹今朝徳は右控訴審の口頭弁論終結前に本件建物買取請求権を行使し得たのにかかわらず、これを行使しなかつたのであるから、その後である昭和三八年一月一四日に至つて右買取請求権を行使することは許されないものである。
(二) また、控訴人らの先代佐々木善松が右大竹今朝徳を相手方としてなした申請に基き、函館地方裁判所は本件建物につき譲渡その他一切の処分を禁止する仮処分をなし、昭和三一年五月九日右仮処分登記がなされたものであるから、右大竹は右仮処分登記後に本件建物買取請求権を行使しても、その効果を仮処分債権者である控訴人らに対抗することができない。
従つて、右買取請求が認められない以上、控訴人らは本件建物の賃貸人たる地位を承継せず、被控訴人らは本件土地を占有する正当な権原を有しないものである。
第三、被控訴人らの主張
被控訴代理人は、次のとおり述べた。
一、控訴人らの主張一、の事実のうち、被控訴人らがそれぞれ控訴人ら主張の建物部分に居住し、その敷地を占有していることは認める。
二、本件土地は、もと控訴人らの先代佐々木善松の所有であつて、同人から杉本初三郎が右土地のうち二四坪を建物所有の目的で賃借し、その地上に本件建物を所有していたが、杉本初三郎は昭和三〇年四月一四日大竹今朝徳に対し本件建物を譲渡すると共に、右土地賃借権をも譲渡したもので、被控訴人らは右大竹から同人が右建物を取得した右四月一四日以降本件建物のうち、控訴人ら主張の部分をそれぞれ期間の定めなく賃借してきた。控訴人らの先代佐々木善松は昭和三四年六月一五日死亡し、控訴人らは本件土地を相続したが、善松並びに控訴人らは前記の土地賃借権譲渡を承諾しないので、右大竹は同三八年一月一四日控訴人らに対し借地法第一〇条に基き本件建物を時価をもつて買取るべきことを請求したので、本件建物は控訴人らの所有となり、控訴人らは右建物の賃貸人たる地位を承継したものであるから、被控訴人らは本件建物部分並びにその敷地を適法にそれぞれ占有するものである。
三、控訴人ら主張の三、の事実のうち、大竹今朝徳に対して控訴人主張の確定判決がなされた事実及び同人に対しその主張のような仮処分がなされた事実はいずれも認める。しかし、買取請求権の行使は控訴人らの主張の訴訟の控訴審の口頭弁論終結前になされなければならぬとの時期の制限はないものである。また、控訴人ら主張の仮処分は控訴人らの本件建物収去及びその敷地明渡請求権の執行保全のためになされたものであるから、右仮処分は仮処分債務者たる右大竹の本件建物買取請求権の行使をも禁止しているものではない。
第四、証拠<省略>
理由
本件土地が、もと佐々木善松の所有であつて、同人は杉本初三郎に対して右土地のうち二四坪を建物所有の目的で賃貸し、右杉本はその地上に本件建物を所有していたこと、同人は昭和三〇年四月一四日大竹今朝徳に対し本件建物及びその敷地の賃借権を譲渡し、被控訴人らは右大竹から右四月一四日以降本件建物のうち控訴人ら主張の部分を各賃借して居住し、その敷地を占有していること、控訴人らの先代佐々木善松は控訴人ら主張の日に死亡し、控訴人らが相続により本件土地所有権を取得し、賃貸人たる地位を承継したことはいずれも当事者間に争がない。さて、被控訴人らは、右杉本から右大竹に対してなされた本件建物の敷地賃借権の譲渡を佐々木善松ないし控訴人らは承諾しないので、右大竹は昭和三八年一月一四日控訴人らに対し本件建物買取請求権を行使したから、本件建物は控訴人らの所有となり、同時に賃貸人たる地位を承継したものであるから、被控訴人らは本件建物部分並びにその敷地を占有する適法な権原を有するものであると主張するのに対し控訴人らは右買取請求権の行使は控訴人ら主張の訴訟の控訴審の口頭弁論終結前になされなければならぬものであり、また控訴人ら主張の仮処分がなされているから、右買取請求権の行使は仮処分債権者である控訴人らに対抗できず、被控訴人らは本件建物の敷地を占有する正当な権原はないと抗争するので、この点について判断する。先づ、佐々木善松ないし控訴人らが右土地賃借権の譲渡を承諾しないので、右大竹が昭和三八年一月一四日本件建物買取請求権を行使したこと、控訴人らが右大竹を相手方として同人が右土地賃借権を無断で譲受け、本件土地上に本件建物を所有することよりその敷地を不法に占拠することを理由として、建物収去土地明渡の訴訟を提起し、札幌高等裁判所函館支部において昭和三六年九月二六日控訴人ら勝訴の判決がなされ、右判決は同三七年一月二五日確定したこと、右大竹の買取請求は右訴訟の控訴審の口頭弁論終結の後である昭和三八年一月一四日になされたものであることはいずれも当事者間に争がない。そこで、右買取請求権の行使について、控訴人等主張のような時期の制限があるか否かについて考えるに、右大竹が本件建物買取請求権を行使し、その効果を訴訟上主張できるものとすれば、既に控訴人らと右大竹との間の右訴訟中に行使することができた右買取請求権をその口頭弁論終結の後に行使することによつて、右訴訟において確定せられた権利に変動を生ぜしめることを認めることになり不当であるから、右買取請求権は右訴訟の控訴審の口頭弁論終結の後に行使したとしても、その効果を訴訟上主張することができないものと解すべきである。してみると、被控訴人らは本訴において、右大竹が本件建物買取請求権を行使した効果を主張できず、控訴人ら主張の建物部分を控訴人らから賃借居住することになり、その敷地を適法に占有する権原があるものとすることはできないものであるから、その余の点について判断するまでもなく、被控訴人らに対し、本件土地上に有する右建物部分から退去して、その敷地の明渡を求める控訴人らの本訴請求は正当であり、これを棄却した原判決は失当であるからこれを取消し、控訴人らの請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 長利正己 大西勝也 菅原晴郎)